適正飲酒量が「嘘」だと思われるいくつもの理由

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よく「お酒の飲み過ぎに注意」と言いますね。

ではどれくらいが、「飲み過ぎではない」のでしょうか。

世の中には「適正飲酒量」という言葉がありますが、その実態はどうなっているのでしょうか。
一つずつ検証していきたいと思います。

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「Jカーブ」を見てみる

厚生労働省が運営する健康情報サイト「e-ヘルスネット」の中で、「節度ある適度な飲酒」について、男性の場合は以下のように定義しています。

「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20g程度である。20gとは大体、ビール中ビン1本、日本酒1合、酎ハイ(7%)350mL缶1本、ウィスキーダブル1杯などに相当します。」

(出典:「飲酒のガイドライン」, e-ヘルスネット, 最終閲覧日:2016年1月5日, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html)

ちなみに女性の場合は、これよりさらに半分から1/3の量が適正飲酒量となっています。つまり、ビール:250ml以下、日本酒:半合以下、酎ハイ:175ml以下、ウイスキー:シングル1杯以下が女性の適正飲酒量となるそうです。

さて、この「適正飲酒量」とは、どのように決められたのでしょうか。
よく引き合いに出されるグラフがあります。

それが「Jカーブ」です。

アルコール健康医学協会のサイトによると、

「身体的効用 お酒の効用を医学的な面から裏づけるデータがあります。
適量のお酒を適正に飲んでいる人は、お酒を全く飲まない人や大量に飲む人に比べて、死亡率が低いのです。これを示すグラフの形から「Jカーブ効果」と呼んでいます。
これは、アルコールの虚血性心臓病(心筋梗塞、狭心症など)に対する予防効果が要因と考えられています。アルコールが心臓病を予防する善玉コレステロールの量を増やし、悪玉コレステロールを抑えるのです。」

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「Jカーブ効果の図。
全死亡率とは、病気だけでなく、事故、事件を含めたあらゆる原因による死亡率。「全く飲まない」人を1とした場合の各飲酒量ごとの相対的な死亡率をグラフにした。」

(出典:「お酒のさまざまな効用」「お酒のさまざまな効用」, (社)アルコール健康医学協会, 最終閲覧日:2016年1月7日)

とても綺麗なJのカーブになっていますが、これは本当でしょうか?
ちなみに(社)アルコール健康医学協会の理事には、日本蒸留酒酒造組合専務理事や、日本酒造組合中央会副会長や、ビール酒造組合専務理事や、全国小売酒販組合中央会副会長など、そうそうたるメンバーが揃っています。

そしてこちらは厚生労働省のe-ヘルスネットからの情報です。

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「この研究では40歳~79歳の男女約11万人を9年~11年追跡しています。
グラフの「禁酒者」とは、以前に飲酒していたが何らかの理由で現在禁酒している者です。これらの者は健康問題を持つ者が多いと推定されます。
図のように男女とも、外傷やその他の外因による死亡以外は、がん・心血管疾患および総死亡でJカーブが見られます。総死亡でみると男女とも1日平均23g未満(日本酒1合未満)で最もリスクが低くなっています。」
(出典:「飲酒とJカーブ」, e-ヘルスネット, 最終閲覧日:2016年1月8日, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-001.html)

以前に飲酒していたが、何らかの理由で現在禁酒している者」というのは、つまりドクターストップが掛かった人のことであると推察されます。だから例えば重度の肝硬変や末期のがんに罹って、飲酒を絶対的に禁止されている人が、禁酒したまま亡くなったとしたら、当然「禁酒者の死亡率」が上がるわけです。

そしてこの 「禁酒者の死亡率」を、(社)アルコール健康医学協会も明らかにグラフに取り入れています。そのほうが、グラフが綺麗な「J」の形となり、いわゆる「適正飲酒量」を飲んだ場合の効果が際立つからです。

このやり方はおかしいですよね。一体どうしてドクターストップの掛かった「禁酒者」のデータを入れる必要があるのでしょうか。そのデータを取り入れることによって、Jの形のボトム部分をより深くしようとしているとしか思えません。そのほうが一見、「適正飲酒量を飲んだ方が、健康に良い」というイメージを、見た人により鮮明に植えつけることができるからだと思われます。

      

そして「非飲酒者」とは、お酒が嫌いだったり、下戸だったりする人のことだと推察されますが、その人の数値を基準にした場合、お酒を一杯でも飲むと、外傷及び外因死で死ぬ確率が跳ね上っているのが分かります。特に女性はお酒を一杯飲んだだけで、死亡率が2倍以上にもなっているのです。

さらにそもそも釈然としないのは、何故調査対象者が40歳~79歳の男女に限られているのかということです。
20歳から39歳までのデータが無いというのは、あまりに不自然ではないでしょうか? 普通に考えて、外傷及び外因で死ぬ確率が高いのは、無謀な若い人の方だと思われます。

それはもしかして、20歳~39歳までの人のデータを加えてしまうと、総死亡が「Jカーブ」にならなくなるからではないでしょうか? 現状の40歳~79歳のデータでも、ギリ「J」(?)の形を保っているわけですから。

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(出典:「飲酒とJカーブ」, e-ヘルスネット, 最終閲覧日:2016年1月8日, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-001.html)

この表を見ても、高血圧、脂質異常症、脳出血、乳がん、肝臓疾患等については、そもそも適正飲酒量が存在せずに、いきなり右肩上がりになっています。

これだけマイナス要素があるにも関わらず、何故「一杯飲んだ方が、かろうじて総死亡率が低い」とか、「心血管疾患の予防に良い」という部分だけ強調されるのでしょうか。しかも調査対象者を40歳~79歳の男女に絞るという条件付きです。

ちなみに2014年5月にWHOが「アルコールと健康に関する世界の状況報告書2014」内で報告した内容を見ると、

「アルコール摂取は、若年期における死亡や障害の原因となる。
20~39歳の年齢層の(世界の)全死亡の約25%は、アルコールに起因するものである 」

と書いてあります。
(出典:保健師ジャーナル 「アルコールと健康障害」, 2015年, p189)

やはり調査対象者を40歳~79歳の男女に絞った原因は、Jカーブを「Jの形のまま残したいから」ではないでしょうか。

      

2) 適正飲酒は、本当に心血管疾患の予防に良いの?

これは前述の「全死亡率」にも関係してくるのですが、The New York Timesに興味深い記事が掲載されているので紹介します。

「これまで、所謂『適正飲酒』は、心臓の健康に加え、糖尿病や認知症の予防にも効果的と考えられてきた。

しかし複数の学者から、『適正飲酒と死亡率の低さには、実は何の因果関係も認められていないのではないか』という疑問が呈せられている。
健康的な人が適正飲酒を好んでいるのであって、適正飲酒が健康的な人を作っているのではないという考え方である。

『飲酒を適正なレベルにコントロールできる人は、煙草も吸わなければ、暴食もせず、適度なエクササイズも行っている。(適正飲酒と低死亡率の相関関係を述べるに当たって)そういった要素を考慮に入れていない。』と、元カリフォルニア大学の社会学者は言う。


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アルコール業界とそうした研究を行う機関との、金銭的な癒着も問題視されている。そういった研究機関は、アルコール業界の出資に頼って研究を行っている。
『結果として、適正飲酒と死亡率の相関性について、きちんとした研究が行われてこなかった』と、疾病研究センターの学者は言う。」

(出典:“Alcohol’s Good for You? Some Scientists Doubt It”:最終閲覧日:2016年1月8日)

   

まさにこの記事に書かれている通りで、スマートにお酒を嗜む人は、その他のことについてもまんべんなく、スマートにそつなくこなすので、心身共に健全な状態を保っていられるわけです。その結果として、長生きできているのであって、けっして飲酒のお蔭で長生きできているわけではないということですね。理に適っているのではないでしょうか。

アルコール業界の出資に基づいて研究を行っていたり、アルコール健康医学協会のように、理事に酒造業界の重鎮たちが居並んでいる状態で啓蒙活動を行っている団体が、現実としてあるわけです。やはりそういう状況では、公正な研究結果が出てくるとは思えません。実際にアルコール健康医学協会がウェブサイトに載せているJカーブの見せ方についても、前述の通り疑問を感じずにはいられません。

さて、もっと手っ取り早く、「適正飲酒量の範囲内で酒を飲んだ方が、心血管疾患の予防に良い」という部分に関して、異議を唱える主張を紹介します。

「肝硬変や怪我、そして様々な癌といった、アルコールの害についてはよく知られるようになりました。
しかし、適度な飲酒が冠動脈性心疾患や脳卒中のリスクを軽減するかについては、議論が続いています。

多くの調査が、少量飲酒するほうが全く飲まないよりも有益であることを表していますが、調査方法が他の解釈を排除できないために、大きな争点となっています。

British Medical Journal に掲載された調査結果によると、この疑念は正しかったようです。
ロンドン大学のマイケル・ホルムスとロンドン衛生熱帯医学校のキャロライン・デールは、この疑問についてのレポートを発表し、25万人のヨーロッパ系の人を調査したところ、アルコールの摂取量が少ない人ほど、冠動脈性心疾患や虚血性脳卒中、そして心疾患のリスクが少ないことが判明しました。

Alcohol Action New Zealand のスポークスマンである、ジェニーコナー教授によると、アルコールを少ししか、または全く摂らない人は、より血圧が低く痩せており、冠動脈性心疾患や脳卒中に罹るリスクが低いとのことです。
これはヘビードリンカーに限ったことではなく、モデレートドリンカー(適正飲酒者)や少量のお酒を飲む人についても同様に、アルコールの摂取量を減らすことが、心臓血管の健康のために良いということを表しています。
さらに、これは少量~適量のお酒を飲むことが心臓に良いという説に対して異議を申し立てるものであり、既存の調査に不備があるという主張を助けるものでもあります。

ドグ・セルマン教授は続けます。
これは飲酒が身体の健康に寄与するかどうかの論争に於ける、重要なターニングポイントであり、かつて疑わしいと考えられていたことが、正にその通りだったということです。
長い間、飲酒の良い面が、業界やメディア、そして何人かの健康専門家によって広められてきましたが、もうやめるべきです。」

(出典:“More evidence that alcohol is not good for your heart”, Scoop independent news, Sci-Tech, 2014年, 最終閲覧日:2016年1月8日)

このようなはっきりとした反証も出ています。

      

以上のことを踏まえると、

① 適正飲酒量を飲んでいる人は、全く飲まない人よりも死亡率が低い

② 適正飲酒は心血管疾患の予防に良い

以上の定説は、本当に信用に値するものなのでしょうか?

「適正飲酒量」とは、本当は存在しない幻なのかもしれません。

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